行動学会 MailNews (90) 12 Nov 2010 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメールマガ ジンです。 *************************************************************           CONTENTS ・来年度の四学会合同大会「Animal 2011」について ・第13回ISBE(於パース)印象記 ************************************************************* ・来年度の四学会合同大会「Animal 2011」について 既に一度お知らせしていますが、来年度(2011年)の大会は日本動物心理学会・日本動物 行動学会・応用動物学会・家畜管理学会の四学会合同大会「Animal 2011」として、9/8 -11日の日程で、慶應義塾大学三田キャンパスで開催される予定です。この度、大会HPが 以下のURLで公開されましたのでお知らせいたします。 大会サイトのURL: http://www.saitama-med.ac.jp/medlinks/animal2011/index.html -- ・第13回ISBE(於パース)印象記 Perthで開催された第13回ISBEの印象記を、鈴木俊貴さん(立教大学)、佐藤 綾さん(東京学芸大学)、小汐千春さん(鳴門教育大学)に書いて頂きまし た。どんな国際学会だったか、大会の雰囲気をよく伝えている印象記です。 (上田恵介) **** ISBE 2010 参加印象記 鈴木俊貴(立教大院・理)  今年の9月26日〜10月1日にAustraliaのPerthで開催された、第13回国際行動生態学会議 (Congress of the International Society for Behavioral Ecology)に参加してきまし た。成田から9時間半。時差1時間。Perthは空気が乾燥していて少し肌寒かったですが、 街並みが美しく、過ごしやすい場所でした。  大会は1日目がWelcome Reception、2日目〜6日目が発表、7日目がPost Congress Symposiumというスケジュール。2,3,5日目の朝は大きな会場でPlenary Sessionがあり、 まとまったお話を聞くことができました。  僕は大会3日目にAcoustic Communicationの枠で、小鳥の警戒声に関して口頭発表しま した。発表時間15分に質問時間3分。映像や音声を組み込んだプレゼンテーションに仕上 げました。発表前に座長のRobert Magrathさんをはじめ、数名の研究者の方に声をかけて いただいたこともあり、ほどよい緊張感で発表することができました。発表後、「おもし ろかった」、「おどろいた」などと、たくさんの方から声をかけていただきました。自分 がおもしろいと信じて続けてきた研究が評価されると、とてもうれしいものです。研究に 対する意欲もさらに大きくなりました。  印象に残っているのは、大会最終日(6日目)のNick Daviesさんの記念講演( Hamilton Lecture)。ヨーロッパカヤクグリ(性の対立・配偶システム)、カッコウ(托 卵・軍拡競争)のお話を中心に、彼の観点からとらえた行動生態学の発展の軌跡を1時間 かけて紹介するという内容でした。発表後はスタンディング・オベーション。僕も拍手を 送りながら、いつかこのような場で発表できる研究者になろうと心に誓いました。  420の口頭発表、251のポスター発表。スケジュールの都合上、聞きたい発表をすべて聞 くことはできませんでしたが、全体的に興味深い研究発表が多く、とてもいい刺激になり ました。また、発表を通じて多くの人と議論を交わすことができ、たくさんの方と知り合 いになりました。ISBEに参加して本当によかったです。 **** 第13回国際行動生態学会に参加して 佐藤 綾(東京学芸大学・連合学校教育学)  2010年9月26日から10月2日にかけてオーストラリアのパースで開かれた国際行動生態学 会 (ISBE 2010 Congress) に参加してきた。ちなにみ、これが私にとって初めての海外渡 航であり、初めての国際学会であった。そう聞くと、たいそう衝撃的で圧倒されることば かりだったのだろうという印象をもたれるかもしれないが、実際のところ私が感じたのは 、「使う言語が違うだけで国内での学会と同じじゃないか、世界なんてさほど遠くない」 ということだった。正解か不正解かはさておき、とにかくそれが私の印象だった。  今回参加して分かったのだが、私は国際学会というものに対して誤ったイメージを抱い ていたようだ。日本○○学会、国際○○学会というのはスポーツでいう全日本××選手権 、世界××に相当するものだと捉えていた。よって、「日本選手権では表彰台にあがれた のに、世界の壁は高い」という流れで、「国内の学会では興味を持ってもらえたのに、日 本のレベルはこのくらいか、世界ってすごいな」ということを期待していた。よくよく考 えてみると、私は日本代表ではないし、研究というものは競い合うものでもなかったので ある。だとしても、今回の学会に参加するに当たり、私は、イギリスや北欧など行動生態 学が盛んだと言われる国に「この国ではこんなことをやっているのか」と圧倒されるので はないかと思っていた。しかし、実際に参加してみると、国ごとに特色はあるものの、行 動生態学という分野が国という枠に関係なく足並みを揃えて同じ方向に進んでいるという 印象を受けた。  私が専門としているcryptic female choiceやmaternal effectなどの分野に関して言え ば、国内の学会では昆虫での研究が多いのに対し、今回の学会では鳥やトカゲの研究が中 心であったという違いがあるものの、内容そのものに大きな隔たりはなく、話を聞いてい てもどこかで聞いたことがある感が拭えなかった。それもそのはずで、どのような材料で どのような研究が進んでいるのかということは、論文を通じてだいたいを把握することが できているのである。ネットワークが発達し世界が容易につながっている現代では、昨今 の研究の風潮といったものは、学会に参加するまでもなく入手可能な情報なのである。そ のことを踏まえて考えると、国際学会というのは、世界の最先端を感じ(て叩きのめされ )るところではなく、「あの論文の著者じゃないか」という研究者と会って話すことがで きる!という場だったのだということに今になってようやく気がついた(当初、私は何か に勝負を挑み、何かと闘うつもりだったのだ)。  実際、この学会に参加して何が一番楽しかったかと聞かれたら、グッピーの研究をして いる人たちと話すことができたことだと迷わず答える。私は、グッピーの繁殖戦略につい て研究をしているのだが、今回の学会で、同じ材料を使って似たような研究を行っている 人たちと初めて話すことができた。そのような人たちと会ったら、変なライバル心がでて しまうのではないかと不安だったのだが、それはとんだ思い過ごしであった。似たような 研究をしているとはいえ、各グループで基盤としている部分が少しずつ異なっており、そ れぞれのもつ特色がお互いの研究の考察のヒントとなり、互いの研究があるからこそ自身 の研究が進んでいるのだと感じることができた。また、材料が同じなだけあって、似たよ うなジレンマを抱えていたり、似たような将来を見据えていたりと共感する部分が多く、 「よぅ兄弟」と呼びかけたい気分になったほどである。私はこれまで、同じ材料を使って 同じような研究をしている人たちと話をしたことがなかったため、このような経験は非常 に新鮮で、得るものがたいそう大きかった。とはいえ自身のポスター発表に関しては、内 容があまりにも簡潔すぎたためと、英語でのコミュニケーションに問題を抱えていたため 、突っ込んだ議論にはほとんど至らなかった。また、「あの人に発表を聞いてほしいのだ けれどな」ということがあっても、結局どの人がその人なのか分からないまま終わってし まった。という二点がたいそう心残りである。それでも、私のポスターを見て、「この論 文読んだよ」といってくれる人が何人かおり、密かににんまりとせずにはいられなかった 。  様々な機関が行っている各国の大学評価や研究者の意識調査は、国間で研究環境に差が あることを示しており、日本はそのような調査で上位にランクされないということがしば しば否定的に取り上げられる。しかし、日本がどういった問題を抱えていたとしても、行 動生態学の分野における研究の質というものは他国に引けを取っていないと今回感じるこ とができた。確かに、国際学会はワールドカップではなく、世界という場に圧倒されるこ ともなかった。しかしながら、本当に私は日本代表ではないのだろうか?研究は競い合う ものではないのだろうか?それは研究者の心持ち次第だと思う。学問は国という単位で競 い合うものではないし、比較するものではないかもしれない。しかし、世界中が簡単につ ながり、国というものが意味をなさないとまで言われる今だからこそ、国力というものを 何によって示すのかということが重要になってくるのではないかと私は思う。会場では、 多くの日本製品を目にした。液晶モニターはパナソニック、音響システムはソニー、また 意外にも東芝のパソコンを使っている参加者が多かった(パソコン、携帯電話など全体と してサムスンのシェアも高かったのだが)。そして、ダイナブックやバイオを使っている 外国人を見かけるたびに、あるいは街中をトヨタやホンダの自動車が走っているのを見る たび、私は自分が日本人であることに誇りを感じた。「どうだっ日本の技術力はっ」。各 国の研究者が集まる中で、私は、自分の研究がこの分野を構成する一つの力であり、この 分野の発展に貢献することができるのだと実感することができた。もしかすると、私のこ とを国というものにとらわれる古風で偏狭な人間だと思われるかもしれない。しかし、こ の学会に参加したことを通じて、私の将来にまた一つ新たなビジョンが加わった。数十年 後、国際学会で発表する我々を見て次の世代がこう思うことを期待する。「どうだっ日本 の研究力はっ」。 **** 国際行動生態学会(ISBE)をもっと楽しむには・・・? 小汐千春(鳴門教育大学)  国際行動生態学会(ISBE)はとにかく刺激的で楽しい。ISBEに初めて参加したのは2000年 のチューリッヒ大会からである。その後,2002年を除き,2004年,2006年,2008年に続い て今回5回目の参加となる。しかし,考えてみるに私はまだまだ十分にISBEを楽しめてい ないような気がする。そこで,これまでの経験と反省をこめて,どうすればもっとISBEを 楽しめるか,考えてみることにした。  まず,参加までの心構えとして,発表する内容は既に論文になっているか,あるいは投 稿中,せめてほぼ投稿直前のものにするべきだろう。これは頭ではわかっているのだが, まだ実践できずにいる。ISBEに限らず国際学会では,発表内容について「どこに発表(投 稿)したの?」といった質問をよくされる。そのときに「いえ,まだ・・・」というのは 恥ずかしいし情けないものだ(今回は幸か不幸かその手の質問はされなかったが)。  次に参加登録。これまた恥ずかしい話なのだが,これまで参加する際には口頭発表には 一度も申し込まず,いつも最初からポスター発表に申し込んでいた。一つには,ISBEの口 頭発表採択率が低く,申し込んでもまず採択されないだろうという頭があったからだが, それ以上に,万が一採択されてしまったら,とても口頭発表する勇気がないというのが本 音である。しかし,いつも若い人たちが口頭発表に申し込んでいるという話を聞くたびに ,私も見習わなければいけないなあと思ってはいた。今回はいろいろ考えた末に,思い切 って口頭発表に申し込んでみた。結果は不採択だったが,立派に口頭発表している若い日 本人たちを見ていて,今後も臆せずに口頭発表に申し込もうと思っている。  学会が始まったら朝早くからプレナリーがあり,夕方遅くまでポスター発表も含めたセ ッションがある。そして,どの講演を聴こうか迷うこともしばしば。今回面白い経験をし た。次にどの講演を聴こうか迷っていた時に,それまで同じ会場にいたNina(プレナリー で最初に話をしたWedell博士)が,ある会場に向かうのが見えた。彼女の研究テーマや研 究対象は私とかなりかぶっていて,今回もしょっちゅう同じ会場になっていたので,思い 切って彼女について行ってみた。すると,私自身はチェックしそこなっていたのだが,と ても面白い発表を聴くことができたのである。年長者の行動を"コピー"するのも時には有 効な戦略だ。  学会期間中の夕食などは,もし可能なら外国人と一緒にとりたいものだが,個人的に親 しい外国人がいないとなかなか難しい。彼らは彼らのコミュニティーを持っているのでそ の中に入るのは容易ではない。これは今後の課題だ。でも,日本人と一緒に食事をするの も悪くはない。というのは,研究分野や対象動物が違ったりして日本の学会で普段あまり 話をする機会がない人と話をするチャンスだからだ。  学会の途中で半日休みがあり,ISBE参加者によるサッカーの試合があったり,半日エク スカーションがあったりする。運動好きな人はサッカーの試合に出るのも良いだろう。今 回は日本は3位だったそうだ。私は運動が苦手なので,エクスカーションに参加した。エ クスカーションも,他の参加者と親しくなる良い機会だ。今回はこれまであまり話をする 機会がなかった日本人研究者たちと話をすることが出来た。  学会の最終日にはオプションでディナーパーティがある。これは出来れば参加したい。 というのは,酔った勢いで(?)外国人研究者といろいろ話が出来る良い機会だからだ。実 際,今回もいろいろな人と話をすることが出来た。また,こういうときはなるべく日本人 のいないテーブルに着くようにしている。そうすると,おのずとまわりの外国人研究者と 話が出きるからだ。今回,このパーティーに関して,現地で受付をしてから「セミフォー マル」のドレスコードが判明した。しかし蓋を開けてみたらみんな昼間と同じ,アロハだ ったりジーンズだったり。考えてみたら,ISBEは堅苦しい学会ではないしネクタイ・スー ツ率もほぼ0%に近い。そこがまた良いのだけれど。また,パーティーでは毎回途中からダ ンスになるのだが,老いも若きも,有名人も駆け出しも踊りまくる(ハミルトン・レクチ ャーを行ったニック・デイビスも踊っていたそうだ)。これも楽しいが酔いも回る。  もちろん,学会の前後あるいは合間に開催地の町を楽しむのも一興だ。今回の開催地パ ースの町はとても良いところだった。特に,町中を飛び交うインコ類については,予想し ていたものの目の当たりにすると感激である(私は実はオウム・インコ類が大好きなので )。また,今回のロゴにも使われているカンガルーポー(カンガルーの前足の意で西オー ストラリアの州花)の花は,生け花でよく使うのだが,自生しているのは初めて見たし, ロゴに使われている赤と緑の2色の種類Anigozanthos manglesiiは印象的だった。  二年後の2012年はスウェーデンのルンドで開催される予定である。北欧は行動生態のメ ッカの一つであり,2004年のフィンランド大会も楽しかったので,とても楽しみである。 さて,次回どこまで楽しむことが出来るかは,今回の反省点も含めてこれからの二年間に かかっているかもしれない。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (90) **********