行動学会 MailNews (70) 01 October 2009 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメールマガ ジンです。 *************************************************************           CONTENTS ・京都賞記念ワークショップ「進化・種分化・長期フィールド研究」のお知らせ ・ サイエンスアゴラ2009シンポジウム:「統合生物学」−生物をまとめて調べると 見え  てくる世界−のお知らせ ・若手研究者によるIEC参加報告(その2) ************************************************************* ・京都賞記念ワークショップ「進化・種分化・長期フィールド研究」のお知らせ 第25回(2009) 京都賞記念ワークショップ 基礎科学部門シンポジウム 「進化・種分化・長期フィールド研究」 “Evolution, Speciation and Long-Term Field Study” ■主催:財団法人 稲盛財団 ■日時:平成21年11月12日(木) 13:00〜17:10 ■場所:国立京都国際会館 ■企画:      巌佐 庸[九州大学 大学院理学研究院 教授] ■講演者と講演タイトル(講演順): Peter R. Grant[基礎科学部門 受賞者、プリンストン大学 名誉教授] B. Rosemary Grant[基礎科学部門 受賞者、プリンストン大学 名誉教授] “Evolution of Darwin’s Finches” 中村 浩志[信州大学 教育学部 教授]  「カッコウ−卵擬態の急速な進化−」 矢原 徹一[九州大学 大学院理学研究院 教授] 「送粉昆虫に対する花の適応とその遺伝的背景」 加藤 真[京都大学 大学院地球環境学堂 教授] 「コミカンソウ科で発見された絶対送粉共生系:パートナー同士の急速な相乗多様化 」 岡田 典弘[東京工業大学 大学院生命理工学研究科 教授] 「ビクトリア湖シクリッドの急速な種形成の分子機構をさぐる」 ■後援:京都府、京都市、NHK ■協賛:日本動物行動学会、個体群生態学会、種生物学会、日本進化学会、日本生態 学 会、日本鳥学会、日本動物学会 ■申込方法: 入場無料、但し事前申し込みが必要になります。稲盛財団ホームペー ジ(http://www.inamori-f.or.jp/)上の専用受付ページからお申込み下さい。折返 し入 場票を送ります。 ■申込締切:11月6日(金) 定員150名(先着順) ■問合せ先: 〒600-8411 京都市下京区烏丸通り四条下ル水銀屋町620番地 (財)稲盛財団 京都賞事務局「ワークショップB」係 Tel. 075-344-3050 Fax. 075-353-7270 e-mail. (Web公開用に省略) -- ・ サイエンスアゴラ2009シンポジウム:「統合生物学」−生物をまとめて調べると 見え  てくる世界−のお知らせ サイエンスアゴラ2009 シンポジウム 「統合生物学」−生物をまとめて調べると見えてくる世界− 現代生物学全体を統合してゆくことを最終目的とする 統合生物学の姿を紹介する。統合生物学によって、 ヒトと生物の未来を見据えることができる。 主催:日本学術会議(統合生物学委員会) 日時:2009年11月2日(月)13:30〜16:30 会場:国際研究交流大学村メディアホール(東京国際交流館) 演題: 1.化石と統合生物学    西田治文(中央大学) 2.太陽を食べる生物と地球を食べる生物−深海生物の不思議に迫る−    北里洋(海洋研究開発機構) 3.生物社会の理解にむけて−生物集団の自己組織化を解明する統合生物学−    松本忠夫(放送大学) 4.遺伝子の側面から生物の世界全体を見る    美宅成樹(名古屋大学) 5.生物学の十字路としての行動生物学    長谷川寿一(東京大学) 6.人類の視点から生物をながめる    斎藤成也(国立遺伝研究所) 総合討論(パネル討論) 司会:鷲谷いづみ(東京大学) お問い合わせ: 斎藤成也((Web公開用に省略)) 国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門 TEL/FAX 055-981-6790/6789 -- ・若手研究者によるIEC参加報告(その2) 若手によるIEC印象記の続きです。 (5)IEC2009@Rennes 印象記 川森 愛 (北海道大学)   2009年8月19−24日、レンヌ(フランス)において開催された31st International Ethological Conference (IEC)に参加しました。国際学会は前回のカナダのIEC以来 2度目の参加となりました。 出発前に、フランス人は英語を話せない(話さない?) と脅され、どうなることか と心配していましたが、実際には街ゆく人々の中にも英語の分かる人が多くいて、現 地の生活で大きな苦労はありませんでした。開催地のレンヌは人で溢れ返るような大 都会ではなく、さりとて不便の多い田舎でもありませんでした。ほど良く活気があり、 メトロやスーパーも利用しやすい、居心地の良い街でした。困ったことと言えば、街 の構造が「大きな広場を中心に放射状に街路が伸びる」という典型的ヨーロッパの構 造だったことです。完全に碁盤の目である札幌の街に慣れた身としては混乱してしま うことが多く、いつまでも道が覚えられませんでした。 メトロの駅から、迷いながらもくじけず歩いていくと、15分ほどの所に学会会場( レンヌ大学)がありました。学会プログラムはティンバーゲンの4つの問いに沿って 進行するという画期的なもので、普段並べて聞くことのないような研究がまとまって いたのは新鮮でした。例えば、ワタリガラスの社会性の発達と昆虫の記憶に関する発 表が同じDevelopmentの括りで並んでいるという調子です。もちろん発表の配列だけ でなく、プレナリートークでもシンポジウムでもティンバーゲンの問いが意識されて いて、とても面白い学会でした。ただ一つ心残りは、ポスター発表です。ポスターは 学会期間中ずっと掲示されてはいましたが、発表時間として設けられたのは初日の1 時間と、残りの日のコーヒーブレイクの合間だけで、発表者にお目にかかれるのは非 常に稀でした。加えてポスター会場が多くの小部屋や廊下に分散していた(しかも迷 路のように入り組んでいた!)ことも発表者との遭遇確率を下げ、ポスターをほとん ど聞けないまま終ってしまったことだけが残念でした。 そうはいっても、今回の学会で得られたものは多くありました。まず人との出会い です。海外研究者との出会いも貴重なものですが、私にとっては日本人との出会いも 貴重です。同じ日本人ということで発表を聞きに行ったり、一緒にご飯を食べたりし て仲良くなれるのは国際学会ならではです。また、研究を行った本人(または近い人 )の口から発表を聞くことで、研究の具体的なイメージを得られる点も学会参加のメ リットです。今回心に残ったのはカケスがタスクを解く映像で、水に浮く餌を食べる ために石を投入し水かさを増やす、というものでした。折しも学会直前、ミヤマガラ スが同じタスクを解くという論文を教えてもらったところで、カケスがタスクを解い たという事実に驚きはしませんでした。しかし、百聞は一見に如かず。論文を読むの と、実際に「鳥が石をくわえて水の中に落とす」という映像を見るのとでは大きな違 いがありました。易々とタスクをこなす鳥を見ていて鳥の認知に関する見識が改まる 思いがし、非常に面白かったです。(後日聞いたところによると、先のミヤマガラス の論文にも動画がついていたそうですが、私は知りませんでした。)  今回IECに参加できたことは貴重な経験となりました。学会の中で得られたことを 活かし、次にも良い研究を持って参加できるよう、日々努力していきたいと思います。 (6)IEC印象記 岩田容子 (School of Biological Sciences, Royal Holloway University of London)  フランス・レンヌで開催されたIEC2009に参加してきました。開催地であるレ ンヌは、パリから電車で2時間ほどの大きすぎず小さすぎずの程よい街でした。 旧市街は独特の古い建物が並び、そば粉のクレープ・ガレットの本場とあって広 場の周りにはCreperieと呼ばれるクレープ屋さんがたくさん目に付きました。土 曜日には旧市街の中央にある広場にフランスでも有数の大きな市がたちます。学 会会場は、そんな旧市街から徒歩10分ほどのレンヌ大学で行われました。  学会は午前中は基調講演、午後はシンポジウムと自由講演という形で行われまし た。それぞれの日にティンバーゲンの4つのなぜ?のひとつをテーマにする、と いう構成でした。そのためか、興味の近い発表が裏で同時に行われることが多 かったのは残念に思います。発表内容は認知の話が目立ちました。実験動物を 使った研究が主で、フィールド研究は少ないように思いました。現在英国在住の ため近いからという理由で今回初めてIECに参加し、繁殖生態(交尾後性選 択)を研究している私としてはやっぱりISBEのほうがあっていそうに思いま したが、普段聞く機会の少ない認知や学習、生理メカニズムの話を聞ける良い機 会となりました。個人的には、幼少期の経験が後の行動に与える影響を社会性魚 類で調べたKotrschal &Taborskyの発表がおもしろかったです。幼少期に大人と 隔離して育てた魚は大人になってから社会的役割をうまく振舞えない、というな んとも人間くさい話でした。また、Sexual selection, polyandry and compatibilityというシンポジウムは多回交尾の遺伝的利益として遺伝的不和合 性に着目したもので、アイディアとしては特に新しくないですが実証データがで てきたなあと感じました。  学会ランチはなかなかお国柄が出る点だと思います。以前ベルギーのとある学会 に行ったときは、毎日毎日同じバゲットサンド(ただし一人丸2本)で辟易した ものですが、ランチの充実っぷりはさすが美食の国フランス、と思わせるもので した。大学キャンパス内に特設テントで会場が設けられ、毎日メニューが変わる ビュッフェに数種のチーズ、ケーキやフルーツもありました。ランチでワインや シードルが出たのもさすがという感じです。  最後に、国際学会は、論文や本ではよく知っている有名研究者を実際に見て話す ことができたり、ストーカー的に論文を追っている研究者や同業者の最新の話を 聞けるチャンスです。私は現在イギリスの大学でポスドクをしていますが、それ はある国際学会で、同業者とのディスカッションから共同研究に発展したことが きっかけでした。お互いに論文で名前と研究内容を知っていても、いざ共同研究 となると、やはり直接話して人柄や研究姿勢などを知ることは大きいように思い ます。1年近くイギリスで生活している今でも英語は非常にカタコトですが、研 究に興味を持ってくれる人は辛抱強く話を聞いてくれます。当たり前のことです が、良い研究を楽しんで続けること、それを臆せず話すことが国際学会参加を実 りあるものにする上で重要と感じました。 (7)IEC雑感 相馬雅代(総研大・葉山高等研,理研BSI)  私のIECへの参加は,ハンガリー・ブダペスト,カナダ・ハリファックスに続き, 今回のフランス・レンヌでの大会で3回目になりました.この3大会を通じての印象 としては,回を重ねるごとに日本人研究者,とりわけ若手研究者の参加が増えている ように感じています.また,発表される研究テーマにも趨勢があり,「はやりすたり 」や,大会主催サイドの研究領域や地域特性などもさまざまに反映しているように思 えます.たとえば,ブダペストでの開催時には,犬の認知研究がちょうど注目を集め 始めた時期であったことと,開催大学での研究が盛んであったことなどが影響してい るせいか,随分犬に関する比較認知研究が多くあったように記憶しております.また, ここ何年間かでとりわけ鳥において勢いづいている分野としては,behavioral syndrome(personality)や,性ホルモンを介した母性効果に関する研究などがあり, その傾向はまだ続いているとは思いますが,こと今回のレンヌでの大会ではそれほど 発表数が多いようには感じませんでした.代わりに,今大会で印象に強く残ったのは, lateralization関連の研究の多さでした.しかし,はやりつつある分野での研究によ くあることだとは思うのですが,玉石混淆という印象はいなめなかったのが事実です. また,ヨーロッパという場所柄なのか(実際,郊外には牛も馬もたくさんいましたが ),家畜,とりわけ馬に関する研究がちらほらとあり,馬の子殺しなど大変興味深い 話を聞くことができました.  今大会は,プログラム編成にも特色があり,期間が実質5日間に短縮されたのみな らず,各日程に発達・メカニズム・応用動物行動学・機能・進化という,ティンバー ゲンの4つの問いとほぼ対応するテーマが設けられていました.このため,口頭発表 やシンポジウムに関しては,似たようなテーマのセッションが集中して同時進行して いる状態がつづき,なかなか大変でした.また,ポスターセッションに関しても,会 場が小部屋に分散していたために,いつ見に行ってもほぼ無人状態のポスター会場な どもあり,残念でした.  私自身の発表に関しては,実は3回目の発表にして初めてのポスターでした.ポス ター発表のよい点は,自身の研究に関して直に意見や印象を聞けること,お互いに論 文を通じてしか知らなかった相手と話ができることにあると思います.そんな意味で, この人と話がしたかったという人と議論ができた時,収穫があったな,と感じるもの ですが,今大会では,同じ分野の先輩にあたり,私自身も論文でよく引用している Karen Spencerと話ができてよかったな,と思っています.また,ポスター発表に来 てくれた人に話をしてみると,あなたの論文よんだわよ,というようなことを言われ ることもままあり,実績を少しずつ積み上げてきた手応えをわずかに感じて嬉しかっ たです. (8)IEC 2009レンヌ大会印象記 佐藤望(立教大学理学研究科) 今年の8月、フランスのレンヌで行なわれたIEC 2009でポスター発表をしてきました ので、この場をお借りしてその報告をいたします。  開催地であるレンヌはフランス西部のブルターニュ地方の都市です。フランスに行 く事ができる喜びと、英語での発表に対する不安が混じり合って、複雑な気持ちで成 田を経ちました。  私にとって、これが2度目の国際学会でしたが、前回は発表を行なっていないので、 今回が初の英語での発表となります。私は現在、修士2年ですが、大学院に進学した 時は、国際学会が遠い存在でした。それが昨年、運良くISBEに参加する事ができ、様 々な海外の研究者と接して、次は自分も発表したい!と思ったのが、今回発表を決意 した理由です。  肝心の自分の発表ですが、身振り手振りを駆使しながら、なんとか説明しました。 相手にどの程度伝わったのかはわかりませんが、聞きに来てくださった方の中には興 味を示してくれた方もいて、とても充実した発表となりました。  今回の学会で最も収穫となったのは、海外の研究者と知り合えた事です。私はカッ コウの托卵に関する研究をしているのですが、4名の托卵研究者が学会に参加してお り、その中には修士の方や学部生の方もいました。同じ世代である彼らの堂々とした 発表、積極的な行動を見ていると、自分ももっと海外の研究者ともっとコミュニケー ションを取りたい、彼らに負けたくないという気持ちが湧いてきます。この気持ちが 英語のスキルアップにつながると思います。 帰国しても、彼らとは連絡を取っています。辞書を片手に苦戦しながらメールを打っ ていますが、苦ではありません。  最後になりましたが、IECで発表するかどうかを迷っている時に背中を押してくだ さった上田先生、徳江さん、上沖君にはとても感謝しています。ありがとうございま した。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (70) ********** 連絡先メールアドレス等はWeb公開用に省略しています。 お知りになりたい方は京都女子大学中田兼介まで(中田のメールアドレスはトップページにあります)