行動学会 MailNews (69) 15 September 2009 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメールマガ ジンです。 *************************************************************           CONTENTS ・第32回IEC(2011年)のお知らせ ・ISBEのNews Letterへの原稿募集 ・若手研究者によるIEC参加報告 ************************************************************* ・第32回IEC(2011年)のお知らせ ** BEHAVIOR 2011 *The first-ever joint meeting of the International Ethological Conference (IEC) and the Animal Behavior Society (ABS) will be held at INDIANA UNIVERSITY, Bloomington, Indiana, USA JULY 25th - JULY 30th 2011 We are planning an exciting, integrative scientific program that draws on the strengths of both the IEC and the ABS. If you would like to receive occasional announcements via email about the conference, please subscribe to our new mailing list by sending an email to: (Web公開用に省略) with the following in the body of the message: Subscribe BEHAV11-L You will be sent an email asking you to confirm your address, and then will be automatically added to the list. Looking forward to seeing you there! * * Emilia Martins, Conference President for Behavior 2011* *Judy Stamps, Secretary General of the International Council of Ethologists* *Mike Ryan, President of the Animal Behavior Society* ** ・ISBEのNews Letterへの原稿募集 会員の皆さま ISBEのNews Letter を作っているオーストラリアのHerberstein氏から、News Letterへの原稿募集案内が来ました。書評等、論文以外の文章を英語で書くのは、日 本人には苦手かと思いますが、自身のある若手会員はチャレンジしてみてください。 上田恵介 (会長) Dear all, If you have any contributions for the forthcoming ISBE newsletter, please let me know: Do you want to review a book or conference? Are you a PhD or recent post-doc wanting to raise your profile in the \\\'spot light on\\\' section? Do you want to advertise a conference or meeting? Have you recently moved and want to inform your ISBE colleagues? Any other society news? Please let me know if you have any suggestions for the new ISBE website: http://www.behavecol.com Deadline is October 1st 2009 cheerio & all the best mariella herberstein ・若手研究者によるIEC参加報告  さきのMail News にIEC印象記を書かせていただきましたが、今度は若手の院生・ PDの方々(行動学会の会員にこだわらず)に、自由にIECの印象を語ってもらいま した。まずは竹内、鈴木、入江、一方井の4氏の印象記です。(上田恵介 (会長)) (1)31st IEC参加報告 竹内剛 (広島大・生物圏科学 )  私は2009年8月19日から24日にフランスのレンヌ大学で行われたIECに参加した。レ ンヌは、石畳の道の両側に歴史のある建物が並ぶ美しい田舎町である。初日の19日は かなり暑い日だったが、それ以降は快適な気候が続いた。天気の悪い日は、半袖では 肌寒いくらいである。町のレストランで食べる食事はおいしかったのだが、英語がほ とんど通じないのには少々困らされた。  学会参加者は650人ほどで、会場は一つの建物の一階と二階にまとまっており、会 場間の移動もスムーズだった。発表はポスターが300件あまり、口頭が300件弱で、材 料は鳥が多く、次いで哺乳類が多かった。私の研究対象である昆虫はかなり少なく、 個人的には残念だった。研究内容は認知科学的なものが多く、行動生態学的なものは 少なかった。以下に、節足動物を材料にした発表で印象に残っているものを挙げる。 動物行動学の祖Von Frischによって明らかにされた、ミツバチのワーカーが八の字ダ ンスによって仲間に餌場の在り処を伝えることは、今や教科書的事例である。しかし、 その後の研究により、どうも各ワーカーがダンスのシグナルに忠実に行動しているに してはコロニーの採餌量が少ないことも分かってきたらしい。ドイツFreie大学のDe Marcoはこの問題に取り組み、各ワーカーは八の字ダンスを見ても、ダンスで示され た方角に行くよりは、過去に自分が採餌した場所に行くケースが多いと主張していた。 他にも、動物は過去に履歴のある行動を行いやすいという研究がかなり見られた。個 体の行動履歴が次の行動を決定するというのは動物行動学のベーシックな発想だから、 そういう意味では行動学会らしかった。  イギリスQueen’s大学のElwoodはヤドカリが『苦痛』を感じているか否かを評価す る方法を発表していた。ある刺激(電気ショック)が、反射ではなく、その後の行動 選択においてその刺激と関連するものの忌避を引き起こす場合、その刺激は苦痛とし て認識されていると考えていいだろうと言っていた。研究上、昆虫を殺すことも多い 私は、昆虫が苦痛を感じているか否かを考えることも時々あるので、なるほどと思わ された。  22日の午後はエキスカーションで、世界遺産のモンサンミッシェルを訪れるコース もあったようだが、私は昆虫採集に出掛けたのでパス。23日の晩には夕食会があり、 ケルト民族の舞踊が披露された。途中からは食事を終えた学会参加者も踊りの輪に入 り、楽しい夕べだった。 (2)IEC印象記 鈴木研太(埼玉大学・院理工 / 理研・BSI)  2009年8月19日から24日までの6日間、フランスのレンヌで開催された31st International Ethological Conference(IEC 2009)に参加してきました。前日と初 日は、フランスにいるのが嘘のような暑さで、なんでもこの夏一番の暑さだったそう です。冷房機器が完備されていない場所が多く、危うく熱中症になりそうでした。そ んな中、ウェルカムレセプションが開かれ、これまた熱く、議論や交流が行われてい ました。  会議では、プレナリー講演10題、シンポジウム27題、口頭発表171題、ポスター発 表352題の研究発表が行われました。30以上の国からの参加があり、日本からも多く の参加がありました。会議のプログラムはティンバーゲンの4つの質問を基にした構 成となっており、1日目は発達、2日目はメカニズム、3日目は、動物福祉や応用研究 など、4日目は機能、5日目は進化、そしてこれらを統合した研究と進んでいきました。  今回の会議では、動物の認知や個性といったテーマの発表が中心として多くありま した。なかでも、脳の機能的な左右性が注目されていました。私は現在、動物行動の ホルモン調節について興味を持ち、埼玉大学大学院で、内分泌学について勉強しなが ら、理化学研究所の岡ノ谷一夫先生の研究室で、鳥類の歌行動とその学習について研 究を行っております。私が興味を持っている鳥類の歌などの音声コミュニケーション の研究と、行動に関連したホルモンの研究との両方の発表が多くなされる会議に参加 するのは、これが初めてだったので、私にとって得るものは非常に大きかったです。    4日目の夜にはフェアウェルパーティーが催され、フランス料理とワインを味わい つつ、会場では、伝統的なダンス(ブルトンダンス?)が披露されました。参加者も 皆、これに飛び入り参加してひとつの輪となり、夜遅くまでダンスは続きました。  レンヌの旧市街は中世の木骨組の家が多く残っており、そこに多くのオープンテラ スのレストランが開かれ、長い夜を楽しむ人たちで賑わうとても魅力的な町でした。 フランスはこの時期、夜遅くまで明るいので、ゆっくりと食事、散策を楽しむことが できました。  2015年には日本での開催が提案されているとのことですので、その頃には自分も研 究者として、一人前になっているように日々勉強を重ねて、研究していきたいと思い ます。 (3)IEC印象記「勇気をもらう学会参加」  入江尚子 (東京大学)  IECへの参加はこれで3度目になります。1度目が2005年ハンガリー、2度目が2007年 カナダ、そして今回が3度目フランス・レンヌでした。どこもヒーリングスポットで した。そして、日常を忘れて、自分の研究をじっくり見直すいい時間が持てました。  IECは生態学の分野の発表が多いと思います。過去では特に鳥類の研究が多く発表 されていました。発表内容などについては、参加者のどなたかから要旨集を借りてご 覧になればわかると思いますので、あえて意見を言うつもりはありません。今回は国 際学会に参加する上で私が楽しみにしていることなどについて、今回のその達成度な どをご報告させていただき、今後初めて国際学会に行こうと思っている方のご参考に なればと思います。  さて、象の認知を研究している私のお目当てはもちろんゾウの発表なのですが、も ともとゾウ研究者は数少ないので、それほど期待していません。今回もゾウの生態調 査に関する報告がポスター1件と口頭発表1件でした。それでも参加した収穫はとても 大きかったのです。なぜなら一番期待する収穫は「研究する勇気をわけてもらうこと 」だからです。  私はゾウの発表以外だと、極力フィールドワークをしている方の発表を拝聴するよ うにしています。研究者はもともと変わり者が多いと思うのですが、特にフィールド ワークを得意とする人はさらに変わり者が多いのではないでしょうか(もちろん普通 の方もいると思いますが)。博士課程まで進んで研究をしていると、研究をしていな い中高、あるいは大学時代の友人や家族から「理解できない」「変わり者」というレ ッテルを貼られ、ときには出入りしている研究協力機関(私の場合、動物園)の関係 者の方からも「その歳になってまだ学割か」とあきれられたりします。そんなとき、 研究者の中でも変わり者精鋭隊に分類される方々の発表を聞き、それに心から感動す ることで、「やっぱりこの道が一番だ」とひどく勇気づけられるのです。  他にもあります。一般的な心理学の研究者の方に動物心理学の研究発表をすると、 ときに「くだらない」「ただの趣味ではないか」という具合に嘲笑されることがあり ます。そんなとき気の弱い私は言い返す言葉もなく黙り込んでしまいです(散々言い 返してからのこともありますが)。IECの発表はそんな人たちから見れば「トリビア 」の宝庫、でも動物学者から見れば知的好奇心を掻き立てられ、大興奮の嵐です。感 嘆のあまり溜息まで出たり。そしてまた勇気づけられるのです。  もう一つ大切なこと、それは同じ分野の研究者たちの顔と人となりを知ることです。 たとえば、今回も、私は出会いました。自分の論文に引用した論文の著者について「 この人すごいなぁ、かなわないなぁ」と思っていた人がいたのですが、実際会ってみ ると自分とさほど年齢も変わらない、それもかなりのハンサム青年だとわかったので す。しかも彼も私の論文を引用してくれていて、「どんなマッチョのおばさんかと思 っていたよ」と言われたのです。他にもものすごい有名で尊敬すべき研究者の方がと ても気の優しい方だとわかったり、という具合に、論文で名前しか知らなかった方々 の顔を知ることはとても大切だと思います。そうした方々とコーヒーブレークや晩ご 飯のときに語り合うことで情報はもちろん、得られる安心感は宝物だと思います。  IECは発表者の専門分野も幅広く、また年齢層も大御所から若手まで幅広く参加し ます。自分の研究に関するヒントを得たり、他の研究者の意欲に刺激を受けたり、と 収穫できるものは未知数ではないかと思います。  最後に、国際学会に共通して言えることかと思うのですが、日本人研究者と仲良く なれるということがあります。海外に行って、早口だったり訛りのある英語にばかり 囲まれていると、自然と日本人同士が集まりだします。国内の学会ではポスター発表 にすら行かないくらい分野が違う人でも、その人が日本人というだけで、話してみた りすることがあるのではないでしょうか。分野が違う研究からもたくさんの有益な情 報は得られると思います。国際学会は、そうした横のつながりも広がる場と言えるの ではないでしょうか。  今回IECに参加して、こんなことを思いました。 (4)IEC2009印象記 一方井(いっかたい)祐子 (慶應義塾大学大学院 生物心理学研究室) 8月19日から24日まで、フランスのレンヌで開催された第31回国際動物行動学会( International Ethological Conference)に参加しました。出発前は、申込み画面に ちらほら現れるフランス語にもビクついていた私でしたが、色々な人に助けられなが らも、何とか会場のレンヌ大学に到着。会期中には様々な国の大学院生と話す機会が あり、研究内容や研究に対する姿勢、ラボの様子などを窺い知ることが出来ました。 特に、海外の院生の自信に満ち溢れた姿には正直、衝撃を受けました。とはいえ、個 々に話している際、「考えていることは自分と同じだ!」と気付く場面もあり、そん なときには距離が少し縮まった気がしました。彼らと友達になれたことは大きな収穫 でした。 今回の学会では、Animal personalityに関する研究や犬に関する研究が盛況だった印 象を受けました。また、ポスターの数も多く、沢山の研究者が様々なことを研究して いる!という当たり前の事実に、とにかく驚かされました。ただ、ポスター発表では 責任在籍時間が明確でなかったためか、目当てにしていたポスター発表者に出会えず 探せず話を聞けず、ということが多々あったことは残念でした。 英語という言語は、私にとって依然課題が残るところです。一瞬でも気を抜くと英語 が入ってこなくなる、というのが正直なところです。今まで自分が学んできた分野や、 自分が特に興味を持っている分野の講演はかなり聴きやすかったのですが、全く違う 分野の講演になると、どれだけ理解出来ていたか…。貴重な機会を無駄にしていると いう悔しさが残りました。さらに自分が用意して行ったもの(ポスター発表)以外の ことにどれだけ対応できていたか…。英語力以外にも足りないものが沢山あることを 実感させられました。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (69) ********** 連絡先メールアドレス等はWeb公開用に省略しています。 お知りになりたい方は京都女子大学中田兼介まで(中田のメールアドレスはトップページにあります)