行動学会 MailNews (240) August 26 2017 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメール マガジンです。 ******************************************************************           CONTENTS 国際動物行動学会議(IEC)参加報告 * 国際動物行動学会議(IEC)参加報告の掲載 中嶋康裕 * IEC Behaviour17に参加して 佐藤 駿(大阪市立大学 理学研究科) * 35th IEC Behaviour 2017 参加報告 川坂 健人(大阪市立大学 理学研究科 M2) ****************************************************************** 国際動物行動学会議(IEC)参加報告の掲載 中嶋康裕 2017年7月30日から8月4日まで、Lisbon近郊の街Estoril(ポルトガル)において 第35回国際動物行動学会議(IEC)が、Association for the Study of Animal Behaviour (ASAB)と共同でBehaviour 2017として開催されました。実行委員会に よると日本人参加者数は43名で、イギリス、ドイツ、ポルトガル、アメリカ、フ ランスに次いで、オーストラリアとともに第6位だったそうですが、動物心理学 会など本学会員でない人の参加も多く、本学会からは中田編集長、上田元会長、 幸田正典さん、森貴久さんなど十数名でした。中嶋は、以前は毎回のように参加 していましたが、研究手法や対象動物群がIECの主流と違ってきたことなどから、 最近はすっかり足が遠のき、今回は12年ぶりの参加でした。IECでは以前から脊 椎動物、特に哺乳類の研究が多く、その傾向はさらに強まっていたように感じま す。特に今回はイヌ(やオオカミ)の研究が多いことが目を引きました。また、 飼育下での研究が多いのもIECの特徴で、その点で動物心理学にも親和性がある ようです。今回も若手会員3名に大会参加の印象記を書いてもらったので、まず 第1弾としてそのうちの2名分を掲載いたします。 なお、次回大会は2019年7月23-28日にシカゴのIllinois大学で開催されるとのこ とです。これまでの大会とは異なり、口頭発表は「早い者勝ち」で決定され、シ ンポジウムも大会主導ではなく、基本的にself-organizeで実施されるそうです。 また参加費は学生・一般ともに$200と学生割引なしで格安に設定する予定だそう ですが、これらはまだ最終決定ではありません。さらにその次の2021年はドイツ での開催を折衝中とのことでした。 ****************************************************************** IEC Behaviour17に参加して 佐藤 駿(大阪市立大学 理学研究科) 7月30日から8月4日までポルトガル・エストリルで開催された35th International Ethological Conference Behaviour17に参加してきました。エス トリルは、ポルトガルの首都リスボンから電車で約30分のところにあるリゾート 地で、海や街並みが非常に美しい町です。カジノが有名な町らしく、IECの最終 夜に行われた夕食会もカジノで開催されていました。また、日中の気温は30度ほ どになりますが、風があり空気が乾燥しているため、非常に心地よく、気温もさ ほど気になりませんでした。さらに食事も非常に美味しく、今回の発表会場の近 くにあったPintosという料理店のピザは絶品でした。 僕の発表は8月1日の午前で、そのセッションでは二番手でした。順番や日程が後 になればなるほど、長い間緊張していなければならないので、海外での学会発表 が初めてで、あがり症の僕にとっては非常に良いスケジュールであったと思いま す。発表は12分(+質疑3分)で日本の一般的な学会発表と変わりありません。僕は 英語が「非常に」苦手なので、プレゼンのセリフは予め暗記し、わからなくなり そうなところをPowerPointの発表者ツールを使って補う形で発表しました。しか し、質問時には、質問者の英語を聞きとれず、4つの質問のうち2つの質問に’I can’t follow your question’と答えるしかなく、自分自身の英語力の低さを 痛感する結果となりました。一方、発表後、”Chimpanzee politics”で知られ るFrans de Waal博士や、魚類の認知研究で有名なRedouan Bshary博士から、僕 の研究に関しての意見を聞くことができ、研究における今後の課題を再確認する とともにモチベーションも高めることができました。 他の人の発表は、意外にも多くの発表が認知系の内容で、当初、僕は野外観察の 発表が多いと予想していたので意外でした。また、分類群で見ると昆虫から哺乳 類まで様々な発表がありましたが、特に多かったのが霊長類の発表だったような 気がします。口頭発表は気になる内容が異なる部屋で行われていることもあり、 1題目ごとに早足に会場を移動する必要がありました。しかし、発表スケジュー ルが大幅にズレることもなく、気になっていた発表の多くを予定通り聞くことが できたのは非常によかったです。 今回IECに参加し、非常によい刺激を受けることができました。一方、英語力と いう課題があることもわかりました。国内外の他の研究者とコミュニケーション を取ることは非常に重要であることは言うまでもありません。海外の研究者と思 うような議論を行えなかったことは今回の反省点の一つです。今後、英語力を高 めることはもちろんですが、伝えること・聞くことの工夫(筆談など)をすること で、より充実した海外での学会発表を楽しめると思っています。 ****************************************************************** 35th IEC Behaviour 2017 参加報告 川坂 健人(大阪市立大学 理学研究科 M2) 7月30日から8月4日までの6日間、ポルトガルのエストリルで開催された国際動物 行動学会35th International Ethological Conference Behaviour 2017に参加し ました。初めての国際学会かつヨーロッパということもあり出発前はどんなとこ ろだろう?と不安に思うこともありましたが、リゾート地として有名な町らしく 現地の方々も親切で、大西洋からの涼しい風が吹く風光明媚で過ごしやすい場所 でした。 私はポスターセッションに振り分けられたので、会期前半にあたる7月31日と8月 1日に発表を行いました。これまでに参加した日本動物行動学会などと比べてポ スター発表の時間が短く(両日ともに2時間だけ、コアタイムは1時間)、先輩方 から事前に「面白い研究ほど口頭発表に回されるから、ポスターはあまり人が来 ないよ」などと言われていたので、ほとんど発表を聞いてもらえないだろうと残 念に思っていました。しかし、ポスターセッションが始まると予想に反して多く の人がポスターの前で立ち止まり、じっくりと目を通してくれました。日本人だ から英語が苦手と思われていたのか(もちろん、実際に苦手なのですが)向こう から説明を頼まれる機会は少なかったのですが、それでも10名ほどの海外の方と 研究について議論することができました。今回、私の発表が「魚類における顔の 倒立効果」という認知寄りの内容だったこともあり、同分野で先行する霊長類の 顔認知や、魚類の個体識別能力について研究する方々から質問を受けることが多 く、自身の研究を客観的に見直す有意義な時間となりました。また、このポス ターセッションに参加していて非常に驚いたことの一つに、自分と同じテーマ (魚類の倒立効果)を扱う研究者が何人も発表を聞きに来たことがあります。国 内学会だけに参加しているとテーマの被りも少なく、自分の研究がマイナーなも のと錯覚しがちですが、世界には競争相手がいることを思い知らされました。そ して、彼らが口を揃えて「もう投稿したの?」と聞くこともあり、研究成果を早 く論文にすることを意識するようになりました。 他の発表に関しては、口頭・ポスター問わず霊長類の認知を対象としたものが多 い印象を受けました。しかし、哺乳類や昆虫、魚類などの分類群にも興味深い発 表があり、毎日充実した時間を過ごすことができました。 今回この国際学会に参加し、研究に対して大きなモチベーションを得ました。そ れと同時に、相手に自身の研究を伝えるには英語力が不足していることも自覚し ました。現状の拙い英語力では相手との意思疎通に時間がかかり、日本語ほど深 く議論することもできず、貴重な機会を十分に生かせなかったことは反省すべき 点です。今後は、国際学会を自分にとってより充実したものにできるよう英語力 を高めていきたいと思います。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (240) **********