行動学会 MailNews (209) October 14 2016 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメール マガジンです。 ******************************************************************           CONTENTS * 第16回国際行動生態学会議(ISBE)参加報告(2/2) ISBE 2016 参加報告 太田菜央 ISBE 2016 印象記 岸茂樹 ****************************************************************** * ISBE2016 参加報告 太田菜央(北海道大学大学院 生命科学院生命システム科学コース) 7月28日から8月2日まで、イギリスのエクセター大学で開催された国際行動生態学会 議(ISBE)に参加してきました。エクセターは街の中心部に大聖堂や博物館があり、い かにもヨーロッパ、といった趣の街並みが美しかったです。地元の人から、このあた りの観光の拠点としてたくさんの人が訪れる街なのだと聞きました。観光地だからな のか、のんびりとして気さくな雰囲気の人が多く、これまで行った海外の中でも一番 よく地元の人に話しかけられた気がします。エクセター大学は中心街から少し歩いた ところにあり、道中だけでなく大学構内も坂が多かったのが印象的でした。大学内の 宿泊施設が丘の特に高いところに位置していて、案内板が少なかったのもあり本当に ここにあるのだろうかと不安になりつつ、重い荷物を引きずってぜいぜい息を切らし ながら坂を登りました。  ISBEに参加したのは今回が初めてでしたが、群集生態学的な話から、認知・心理寄 りの話まで多様な発表があり、楽しく話を聞いて回りました。無脊椎動物の研究が大 半かと予想していたのですが、思っていたよりも哺乳類、鳥類の研究発表が多かった です。個人的に面白かったのは、カニやチョウなど無脊椎動物のマルチモーダル信号 に関する研究でした。映像が見られるのも楽しかったですし、研究の枠組みや着眼点 など、勉強になるところが多かったです。ちなみに口頭発表のセッション中の移動は 厳しいかと思っていたのですが、1発表毎に5分の移動・休憩時間が確保されているた め移動しやすかったです。会議のシステム上かお国柄のためか、時間にかなり正確だ ったので助かりました。  私自身の発表は最終日のセッションで、鳥類の研究報告をしていたのはそのセッシ ョンでは私だけで、他の人はイルカやハエ、魚の研究者でした。国際会議での口頭発 表はこれが2回目でしたが、初めて発表した時よりも大きな学会で聞き手の専門が幅 広いこともあり、どのような質問が来るのか予測がつかず不安が大きかったです。手 応えは正直なところ、あまり良くありませんでした。発表や質問のやりとりに大きな 問題はなかったと思いますが、英語力と度胸不足で十分に話を膨らませられなかった ことが反省点です。最終日で帰ってしまう人が多いことと、鳥の研究者はあっちを聞 きに行くだろうなあというセッションが同時に複数走っていたせいか、人が少なめだ ったのも残念でした。とはいえ、発表後に面白かったと話しかけてくださる人もいま したし、何より、同じセッションの演者と緊張するねなどと世間話をしつつ、研究の 話ができたのはとても良かったです。研究トピックは似ていてもなかなか話す機会が ない人と交流するきっかけになるのも口頭発表の良さの1つだと思いました。  最終日の口頭発表というのは、会期中ずっと緊張し続けなければならず心臓に悪い 上、発表を聞いてくれた人とじっくり話せる時間が少ない等、色々と不利な点がある ことを学びました。発表順に関してはこちらではどうすることもできませんが、1つ もっと工夫するべきだったと感じているのがタイトルです。冊子には発表者の名前と タイトルしか載らないため、タイトルのつけ方次第で人の入りはかなり変わる印象を 受けました。次回はポスターにせよ口頭にせよ、より分かりやすく、「この発表が見 たい」と思ってもらえるようなタイトルになるよう意識しようと思いました。  口頭発表では最近終えたPhDプロジェクトの成果だと前置きして発表している人が かなり多く、同世代の人が成果を挙げている姿はとても刺激になりました。今回私が 発表した内容はまだ解析も最後まで終えられていない暫定的なものでしたが、早く論 文にしなければ、という良い意味でのあせりを感じました。次回国際学会で口頭発表 する機会がもらえた際には、論文として形になった研究成果を携えて発表に臨むこと、 場を盛り上げる工夫をすることを目標にするとともに、発表日時が学会の前半に組み 込まれることを願うばかりです。 ****************************************************************** ISBE 2016 印象記 岸茂樹(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター) 7月終わりから8月初旬に、イギリスのエクセター大学で開催された国際行動生態学会 (ISBE)の大会に参加してきました。世界広しといえども、自分と同じような興味を 持っている研究者は意外と少ないものです。彼らと実際に会って話をすることはとて も大切です。今回、そうして私は研究の面白さ、自由さを改めて感じました。 今回の学会に参加するきっかけは、昨年10月に一通のメールを受け取ったことです。 Beren R RobinsonとGregory F Gretherの連名で、ISBEのシンポジウムに参加しない か、と書いてありました。一瞬、スパムメールかと思いましたが、調べてみるとお二 人とも多くの業績をあげている実在の研究者で、どうも本物のお誘いでした。とても ありがたいので、ぜひ参加させてくださいと返信しました。その後、プロポーザルに 掲載する要旨のやりとりなどがありましたが、今年の1月終わりに晴れてシンポジウ ムの開催決定のお知らせを頂きました。 イギリスへは7月28日に出発しました。フィンランド航空で成田からヘルシンキ経由 でマンチェスターに到着しました。さらにそこから国内便でエクセター空港に向かい ました。私は学会直前にホテルの予約をしたため、会場近くのホテルはすでに満室で、 郊外の小さな宿屋に泊まりました。 29日朝から学会に参加しました。学会では毎朝プレナリーレクチャーがあり、その日 はTim Clutton-Brockの講演でした。私は彼の講演をナマで聞くのは初めてで感激し ました。私は博士課程でフン虫の行動を研究しており、彼の著書、The Evolution of Parental Care (1991, Princeton Univ. Press)は折に触れ何度も読み返しました。 それだけに講演はとても面白く、これだけでも来た甲斐があったと思えるものでした。 ちなみに次の日からもプレナリーレクチャーは豪華な顔ぶれで、Malte Andersson、 Rosemary Grant、Trevor Price、Hopi Hoekstraと続き、毎日のスタートがとても充 実したように感じました。 その後は、口頭発表が続きます。大会全体の構成は日本の大会とあまりかわりません でした。印象的だったのは若い研究者が多かったこと、そして発表をする人たちだけ でなく、発表を聞く人たちもとても意欲的だったことです。多くの参加者が一つ一つ の発表を真剣に聞いており、同時にとても楽しんでいるようにみえました。発表後に 熱気ある議論が交わされることもしばしばでした。 夕方からのポスター発表ではビールやワインなどのアルコールがふるまわれ、フラン クな雰囲気でした。会場にはLeigh W SimmonsとDavid Shukerがおり、この時間を利 用して二人と話せたのは収穫でした。特にLeigh W Simmonsはフン虫の研究も多く発 表しており、私も少なからず影響を受けました。一頃などは無謀にも一方的にライバ ル視していたこともあり、今回は自分にとって一つの区切りになりました。また David Shukerは繁殖干渉も含めて広い視野で研究を展開しているため、彼がどのよう なスタンスで研究をしているのか非常に興味がありました。話を聞いたところ、彼は 「生物の行動と進化に興味があるが、どちらか一方に偏るのではなく、むしろそれら の中間でわかることを深く掘り下げてみたい」と言っていました。自らの研究の立ち 位置を非常に明確にとらえていることが印象的でした。 私が発表するシンポジウムは正確には学会終了後に開催されました。そのような理由 もあって、聴講者は少なかったのですが、講演者どうしでは活発な議論が交わされま した。全員の講演終了後に講演者どうしで集まり、今回のテーマ Behavioral interference between species について自由に議論しました。そのなかで主催者が 今回のシンポジウムをきっかけに、総説を書くことを提案し、皆もちろん賛成しまし た。私はこのような研究の展開がとても新鮮に感じました。そしてシンポジウム終了 後に皆で食事に行きました。そのときに参加者の一人が「今回の講演者はどのように 選んだのか」と聞いたところ、Berenさんは「さぁ、よく覚えてないなぁ。ググって 出てきた文献の著者に、上から順にメール出したんじゃなかったかな。」と笑いなが ら答えていました。たしかに講演者はアメリカ、カナダ、スペイン、イタリア、ポー ランド、そして日本と多くの地域から参加していました。Berenさんの話がどこまで 本当かわかりませんが、世界の研究者とこんな風に集まることができるのは国際学会 の素晴らしい長所だと思いました。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (209) **********