行動学会 MailNews (208) October 11 2016 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメール マガジンです。 ******************************************************************           CONTENTS * 第16回国際行動生態学会議(ISBE)参加報告(1/2) 国際学会参加報告の掲載 中嶋康裕 2016 ISBE 印象記 田中宏和 ISBE 2016 印象記 石原(安田)千晶 ****************************************************************** * 国際学会参加報告の掲載 中嶋康裕  現在、日本動物行動学会会員向けにお送りしているMailNewsの前身である紙媒体の NewsLetterには、告知記事以外に、ラウンドテーブル報告、国際学会参加報告、書評、 オピニオンなど、多彩な記事が掲載されていました。しかし、NewsLetterが廃止され 電子媒体のMailNewsに一本化された後は、こうした記事が少なくなりました。これは、 申し合わせによって意図的に行われたことではなく、紙媒体から電子媒体への移行の 隙間で漏れていった形で起こりました。紙媒体よりも機動性の高い電子媒体に移りな がら、会員間の意見や情報の交換の機会が少なくなったかに見えるのは残念なことで す。  今年は、沓掛展之さんらのご尽力によって昔のNewsLetterがpdf化され、学会HPか らDLできるようになったことでもあり、少しずつでも以前の状態に復活できればなあ と考えていたところ、7月にはイギリスのエクセターで第16回国際行動生態学会議 (ISBE)が開催され、多くの日本人参加者に出会いました。そこで、若手の参加者に大 会の印象記を書いてもらって掲載したいと思い、小汐千春副会長と中嶋が手分けして 執筆を依頼し、4名の方から原稿をいただきました。その記事を2回に分けて掲載い たします。これを機に、MailNewsをかつてのNewsLetterのように充実した内容にする よう検討していきたいと思っています。 ****************************************************************** * 2016 ISBE 印象記 田中宏和(University of Bern, Division of Behavioural Ecology) 2016年7月29日〜8月3日にイギリスのExeter大学で行われた国際行動生態学会(ISBE) に参加してきました。以下はその印象記です。 ベルンからinstituteが持っているワンボックスに皆乗り込み、フランス横断、フェ リーで海峡を超えての参加。1998/99と古い道路地図を片手に、途中フランスの片田 舎で道に迷いつつ丸一日かけてExeterに到着した。初日は夕方からopening ceremony でRichard Dawkinsの記念講演。William Hamiltonとの思い出話など、興味深い話を 語ってくれた。なお、同じ会場でplenary lectureが毎朝(2日目は午後も)、Hamilton lectureが6日目の午後にあったが、どのlectureもその人が行なってきた研究の集大 成とも言える、非常に素晴らしいlectureだった。 2日目からは早速発表を聞きに会場を行き来するが、離れている会場もあり、往復に 疲労した。それでも、国内では少ない自分の研究テーマの発表が数多くあり、非常に 楽しかった(Michael Taborskyの話では、今回は特に協力行動のセッションが多かっ たとのことで、自分にとっては今回参加することができ、非常にラッキーだった)。 セッションの会場にも有名な顔がちらほら。しかしその人が書いた論文、研究対象種 などで聞きたいことがあっても、どう声をかけていいのかわからない。そこで昼休み にベルンで同じオフィスの友達に相談してみた。「そんなの簡単よ。自分の名前とや ってることを言って、nice to meet youでいいのよ。」と、イタリア人の彼女らしい 回答だった。 早速実践してみると、意外と(?)効果的で、色々と話をすることができた。日本では 協同繁殖の研究者は少ない。D論を書いていた時は、議論する相手もおらずただひた すら論文だけ読んであーだこーだ唸っていたが、そのとき読んでいた論文を書いた人 達から直に話を聞くことができ、さらにはそういった人達が長年かけて野外で研究し てきた対象種の話を直に聞くことができたのは、間違いなく今回一番の収穫だった。 特にドングリキツツキ、シャカイハタオリ、アシナガバチ、セイシェルヨシキリなど、 協同繁殖としては古くから研究されてきた種で、現在もそれらを研究している人がど のようなことを考えているのかを聞くことができたのは、非常に良かった。また、僕 が研究している対象種にも興味を持ってくれて、共通した話題で盛り上がったり、 様々なコメントをもらい、また議論ができ、学会で一番楽しいひとときであった。 僕の発表は3日目の最後から2番目で、初国際学会だったため非常に緊張していたが、 座長のBen Hatchwellが直前に緊張をほぐしてくれたおかげで、すんなり発表できた。 質問では、なぜか発表とあまり関係のないものもあったが、発表後には色々な人に良 かったと言ってもらえて、非常に嬉しかった。発表が終わると、夜は知り合い同士で 夕食に行った。3日目は工藤慎一さんに誘っていただいて、子育て研究者と楽しく食 事を、5日目は魚の研究者同士で夕食に行く…ハズだったのだが、大雨の中の移動で はぐれてしまい、Taborsky夫妻, 院生と僕の4人で、Michaelらのホテルで夕食をとる ことに。すでにホテルにはRedouan Bshary, Sabine Tebbich, Oliver Kruegerらがお り、大教授らに囲まれての夕食となった。しかし彼らの今回の学会に対する印象や、 野外調査の苦労話、さらにはMichaelの若き日の失敗談など、笑い多き夕食で大変楽 しいものとなった。最終日のGala dinnerも、ベルン大学のメンバーや、久々に会う 日本人の同年代の研究者達と一緒に、楽しく過ごすことができた。 学会はいつも楽しめる方なのだが、ここまで楽しめた学会は初めてであった。終わっ てみるとあっという間であったが、心に残る、充実した6日間となった。 ****************************************************************** ISBE 2016 印象記 石原(安田)千晶 (和歌山大学教育学部・日本学術振興会特別研究員PD*)         *(現職:北海道大学大学院 水産科学研究院) 2016年7月28日から8月4日まで、イギリスのエクセターで開催された ISBE 2016 に参 加してきました。私は、ヤドカリのオス間闘争における意思決定や武器形質の機能に ついて研究しており、初めて参加した海外の学会は同国のニューカッスルで行われた IEC 2013でした。そのときに海外の研究者から「あなたの研究は生き物的にISBE向き よ」とのコメントをもらっていたので (私自身はあまり感じませんでしたが、IEC は 哺乳類・鳥類の研究が多いようです)、今回3年越しで、憧れのISBEに参加することが できました。 成田空港からヒースロー空港までの直行便で12時間、さらにヒースローから National Express で約3時間かけ、エクセターに到着しました。駅前のホテルに一泊 し、会場及び学会中の宿泊先でもあるエクセター大学を目指す私の前には、一週間分 の荷物を運びながら登るには予想以上に厳しい坂が……。大会ホームページの地図か らは想像もできなかった高低差に愕然とし、自前の確認を怠った自らを呪いつつ、キ ャリーケースを転がして坂を登ります。途中ですれ違ったおじさんから (生) 暖かい 視線と Hello をもらい、きっとこれも現地の方との触れ合いなのだと自分を慰めま した。大学に到着した後も宿舎までの坂道を休み休み進み、宿舎にたどり着いたとき には気温 20°C 前後とは思えないほど汗だくでした。 さて、大会全体の印象として、イギリスのお国柄か、Plenary Lecture も含めて鳥類 の研究が非常に熱かったということが挙げられます。3年前のコメントから、無脊椎 動物や昆虫系の研究を期待していたため、そういう意味では若干拍子抜けしましたが、 生き物やトピックに関わらずどの時間も聞きたい講演が目白押しで、毎日 Plenary に始まり、2つの建物にまたがる10の会場を歩き回って休む暇もありませんでした。 特に印象に残ったのは、Andersson 氏の Plenary です。私の英語能力は惨憺たるも のですが、非常に分かりやすい英語で、種内托卵を共同繁殖として捉える発想もすと んと入ってきたように感じます。また、例えば質疑応答の際に、会場からの聞き取り にくい質問を講演者に近い席の方が代弁するなど、本講演は全体を通して温かみのあ る雰囲気で、発表者も聴衆も皆さんが幸せな発表だったと思います。 なお、今回の大会で 1 番衝撃だったことは、実は研究ではなく、発表の開始・終了 の合図でした。なんとブザーでもベルでもなく「動物の音 (羽音・鳴き声)」だった のです。もしかすると国際学会では一般的なのかもしれませんが、少なくとも私を含 むそれなりの人が驚いていたように思います。時間がくると何の前触れもなくハチの 羽音が聞こえ、サルが吠え、キジが鳴き……という状況に、最初は戸惑いもありまし たが、慣れてみると参加者層を意識したかなり洒落た選択に感じました。さらに、合 図のタイミングを含む時間の進行は大会側が管理していたため、全ての会場で同一ス ケジュールが徹底されている素晴らしいシステムでもありました。ISBEは沢山のライ ンが流れる大型の学会ですから、「聞きたいもの」をなるべく多く聞くためには、正 確な時間の管理は欠かせません。日本の大きな学会でも取り入れて頂ければ嬉しいシ ステムです。 学会の楽しさとして、知り合いを増やす、ということを重視される方もいらっしゃる かと思います。私は自身の英語能力に自信がなく、初めてお会いした海外の方には積 極的に声をかけることができませんでしたが (当面の課題です)、その分日本人研究 者の知り合いが増えました。国内学会では出会えない方とも、国際学会の場では意外 と仲良くなれるもので、これは嬉しい収穫でした。また、論文査読などで何度かお世 話になっている Elwood 氏と個人的に話す機会があり、研究の話やイギリスに関する 雑談などができた時間もありました。IEC 2013、2015、ISBE 2016 と海外の学会に参 加する中で、鈍足感は否めませんが、国内外を問わず少しずつ顔見知りが増えていく のは嬉しいものです。 自身の発表については、情けなくも勇気がなく、ポスター発表に申込みました。ポス ター会場は広いとは言えず、多くの人でごった返し、海外の方のよく通る声で埋め尽 くされ、日本人の声などは隣同士の会話すら聞き取りにくいレベルの中、それでも数 人の方が私の発表に足を運んでくれました。やはりどんな形であれ発表はするものだ と再確認する上で、個人的にとても嬉しいことがありました。 というのは、ポスター発表の2日後に、本学会で最も楽しみにしていた Weapon & Male-male competition のセッションへ会場入りした私は、いきなり隣の席の方に 「ちょうど君の発表の事を話していたんだよ!」と言われ、パニックに。私に話しか けてくれたのはセクションの演者である O’Brien 氏で、私の拙い発表を聞いてくれ た方でした。彼の話し相手は座長の Briffa 氏で、彼はヤドカリや海産無脊椎動物の 闘争行動をバリバリ研究しています。Briffa 氏には IEC 2015 で勇気を出して声を かけていたため、一応の個体識別は確立しているのかなと思っていましたが、自分の 発表を聞いてくれた方と憧れの研究者が、膨大な演題数を誇る ISBE の中で、しかも ポスターだった私の研究を話しているなんて、正直夢のようでした。本当に、どんな 形であれ発表してよかったと心から思いました。確かにポスターは口頭発表に比べて 発表の効果が薄いかもしれませんが、それに悩むのはもったいないです、是非発表し ましょう! 何が起こるか分かりません。 最後に、行動生態学はヒトサマのお役に立たない研究かもしれませんが、役に立たな い、それがどうした! という空気が大好きです (私がそのように感じているだけか もしれません)。ただただ生き物のそこにある姿が、そこで動き回っている様子が面 白いよね、不思議だよね、素敵だよね! という雰囲気に溢れていて、ああ、やっぱ りこの分野の研究や話題が好きなんだなあと強く思った一週間でした。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (208) **********