行動学会 MailNews (130) February 26 2013 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメール マガジンです。 *************************************************************                   CONTENTS ・日本動物行動学会第31回(奈良)大会 ラウンドテーブル報告書 (その1) ************************************************************* 日本動物行動学会第31回(奈良)大会 ラウンドテーブル報告書 (その1) ラウンドテーブル 「繁殖の偏りを変動させるもの〜配偶者選択の可塑性と形質進化への影響」 報告者 東北区水産研究所 資源生産部 沿岸資源増殖グループ 松本 有記雄  第31回日本動物行動学会において、ラウンドテーブル「繁殖の偏りを変動さ せるもの〜配偶者選択の可塑性と形質進化への影響」を企画開催いたしましたの でここで報告いたします。今回の企画者としての経験を特に私のような学位とり たての研究者に還元できればと思います。  今回、ラウンドテーブルを企画するきっかけとなったのは、学位研究をまとめ る際に、本ラウンドテーブルの共同企画者である東京学芸大学の狩野賢司先生に、 「うちの学生も今、配偶者選択の可塑性について研究しているから、どこかで企 画集会ができたらいいね」と言われたことです。まだ、論文として掲載できてい ない内容もあり、ラウンドテーブルの企画者として振る舞うには時期尚早かなと 思いつつ、若い世代の発表が多い動物行動学会なら大丈夫だろうと自分に言い聞 かせ主催することを決意しました。  ラウンドテーブルの申し込みの準備は余裕を持って(持ったつもりだっ た...)、1ヶ月半前から開始しました。ちなみに、行動学会のラウンドテーブ ル申し込みの締め切りは、一般講演よりも1ヶ月ほど早い場合が多いようです。 準備の段階で特に苦労したのは、多くの人に来聴してもらえるように、様々な分 類群から講演者をリストアップすることでした。同時に、若手を中心にしつつ、 一線で活躍するベテランの研究者である古賀庸憲さんにも講演に加わっていただ くことで、発表にメリハリがつくように意識をしました。申し込みの際に一番緊 張したのは、講演をお願いした方々に良い返事を頂けるかという点でした。私の 場合、分類群が違う研究者との面識が少なく、講演者の一人である高橋佑磨さん は実は当時日本には居られなかったなんていうこともありました。高橋さんのよ うに海外から来られる方や、学会講演に所属機関の許可が必要な方に講演をお願 いする場合、私のように1ヶ月前の依頼ではギリギリです(お願いする側も、お 願いされる側も焦ります)。なので、今後企画される方は1ヶ月前より早めに依 頼することをおすすめします。 ラウンドテーブル当日は懇親会後の朝一でしたが、他に競合するラウンドテーブ ルもなく多くの人に聞きに来ていただけました。本ラウンドテーブルの目的の一 つは、学位を取得して数年の私や高橋佑磨さん、工藤宏美さんが目立つことでし たので、多くの方に来聴していただけた点は大成功と言えるかもしれません。発 表では、配偶者選択における好みが可塑的であること、そしてその可塑的な好み が選択される側の性的形質の進化に与える影響をお話していただきました。趣旨 説明の際に少しお話したように、基本的な性淘汰の理論に当てはまらない、つま り雌が本来の好みではない地味な雄を選択するような結果は論文になりにくく、 そういったデータはどこにも発表されず埋もれたままになっているのではないか と私は思っています。本ラウンドテーブルがそういった埋もれたデータを見直す きっかけになれば本望です。 本ラウンドテーブルの後に行われた、三大怪獣(辻和希さん、工藤慎一さん、長 谷川英祐さん)によるラウンドテーブル「行動生態学はオワコンか?-明日の行 動学へ向けて-」の一部で議論の的になっていましたが、若手研究者によるラウ ンドテーブルへの申し込みが最近は少ないそうです。本大会においても、ラウン ドテーブルは4題分の枠が確保されていたようですが、実際には2題の申し込み しかなかったようです。私自身もそうでしたが、若手にとってラウンドテーブル の企画というのは勇気がいる行為です。しかし、どんな研究者も常に目新しい研 究を聞きたいと思っているはずで、そういった研究ができるのは、研究に没頭で きる時間と柔らかい頭を持つ若手研究者なのではないかと私は思っています。本 報告が、 “行動生態学はオワコンだ”なんて言わせないようなラウンドテーブルが若手研 究者によって企画されるきっかけになればと思います。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (130) **********