行動学会 MailNews (124) December 17 2012 行動学会 MailNews は日本動物行動学会の会員向けに不定期に発行されるメール マガジンです。 *************************************************************           CONTENTS ・第31回 日本動物行動学会 総会次第の報告   ・ISBE 2012 印象記  鶴井香織(弘前大学・男女共同参画推進室) ************************************************************* 第31回 日本動物行動学会 総会次第の報告   2012年11月24日  於 奈良女子大学 【報告事項】 1.事務局報告   会員数 771名  (一般572名、学生194名、海外5名、2012年9月時点)   学会誌出版助成制度の変更と、2013年度への科研費への申請状況について報 告した。 2.行動学会賞・日高賞選考委員会報告(粕谷選考委員長)   2012年度  日本動物学会賞 細川貴弘会員   2012年度  日本動物行動学会日高賞 長谷川眞理子会員 3.編集事務報告(安井編集委員長)   Journal of Ethology の編集状況について報告があった。 4.2013-2014年度選挙結果について 2012年9月14日(金)、東京大学教養学部3号館113号室において開票を行 った。 結果は以下の通り。        選挙管理委員長 嶋田 正和  印(MLでは省略) 会長選挙結果 投票総数 63票 有効票数 61票 白紙票数 0票 無効票数 2票 粕谷英一 18票 当選 長谷川寿一 7票 次点 上田恵介 5票 次々点 今福道夫 3票        (以下省略) 運営委員選挙結果 投票総数 630票 有効票数 601票 白紙票数 18票 無効票数 11票 1. 工藤慎一 29票 当選 2. 上田恵介 25票 当選 3. 沓掛展之 24票 当選 4. 宮竹貴久 23票 当選 5. 中田兼介 20票 当選 (粕谷英一) 20票 (会長当選) 6. 松浦健二 17票 当選 7. 長谷川寿一 16票 当選 8. 小汐千春 15票 当選 9. 狩野賢司 14票 当選 10. 椿宜高 13票 当選 小田亮 11票 次点 安井行雄 10票 次々点        (以下省略) 5.2013-2014年度会計監査員選出  選考中であり、総会終了後に運営委員会MLにおいて承認することが確認された。 6.2013-2014年度学会賞選考委員について  委員の選出方法について、以下の方針が示された。  付則   第5条にかかわらず、2013年ならびに2014年を任期とする選考委員を指名す る際には、2011年ならびに2012年を任期とする委員5名のうち2名を2013年で任 期が終わる委員として再任する。  にしたがい、今後、2013年ならびに2014年を任期とする選考委員を運営委員会 で決定する。 【審議事項】 8.2011年度決算   事務局より2011年度の予算決算と会計監査員の監査結果が報告され、総会に おいて承認された。 9.2013年予算案について   事務局より、2013年度の予算案と今後の学会財政の見通しについて報告され、 総会において承認された。 10. 次期大会開催地について 広島大学で開催することが決定された。 11. その他 ************************************************************* ISBE 2012 印象記 鶴井香織(弘前大学・男女共同参画推進室)  私にはISBEでしか顔を合わせない日本人の知り合いが少なからずいます。私の 専門はバッタを用いた行動生態学なのですが、バッタの調査シーズンは夏から秋 です。行動学会大会の講演要旨締め切りはいつもちょうど調査シーズンまっただ 中で、行動学会で発表することがなかなか難しいのです。そういう事情で、国内 の行動学者とすら直接交流する機会が少ない私にとってISBEは、2年ぶりに行動 生態学にどっぷり浸れること、海外の情報を取り入れられることに加え、国内の 行動生態学者との交流の輪を広げる機会としても、大きな意味があると感じてい ます。今回、このISBE印象記を書きませんかというお話をいただき、恥ずかしな がら先の9月22日、講演申し込みとともに日本行動学会に入会しました。今後と もよろしくお願い致します。  私にとって今回のルンド大会は3回目のISBEでした。1回目と2回目の参加は学 生時代で、研究室の仲間とあれこれ相談しながら学会の申し込みや飛行機の手配 をしたのですが、今回は弘前大学に移った関係で、初めて一人で申し込みや飛行 機の手配をしました。また、学会直前までオープンキャンパスの業務がとても忙 しく、発表準備は前日の深夜まで、旅程の確認は青森空港を発った飛行機の中で、 という状態でした。正直なところ、発表をきちんと行なえるのか以前に、無事会 場まで辿り着けるのかという基本的な所から心配が尽きませんでした。前回の オーストラリア大会では日付を考慮できていなかったせいで、深夜にホテルに着 いたら宿泊予約は翌日からだったという失敗がありました。幸い、当直のフロン ト係のお姉さんがとても親切な方で、ロビーのソファーで寝ることができ、しか も夜食のピザまでおごってもらったのは今となっては良い思い出です。しかし、 前回の失敗にも懲りず、今回も出発直前に機中泊の日数とホテルの宿泊の合計が おかしいことに気付きました。「(凍えるかもしれない)スウェーデンで野宿す ることになるのか?」と、一瞬目の前が真っ暗になりましたが、幸運にも開催直 前に宿泊延長に応じてもらえました。ルンドのホテルにはとても感謝しています。 このように綱渡り的な準備ではありましたが、知り合いのTさんが今年の春から ルンド大学に滞在していたおかげで、現地の気候や雰囲気、コペンハーゲン空港 からルンドまでの電車の時間などを丁寧に教えてもらうことができ、とても心強 かったです。  私はバッタを材料とし、隠蔽色の色斑多型の適応的意義について研究してきま した。また、自切などの捕食回避戦略についても興味があり、研究をすすめてい ます。隠蔽色を含む体色の適応的意義について考える研究者は、日本ではそれほ ど数が多くありませんが、海外には多くいます。ですから、私にとってISBEは、 日本ではあまり聴くことのできない体色の生態学的研究の発表をたくさん聴ける、 とても楽しみな学会です。体色の生態学的研究は海外の中でも特に北欧やイギリ スでとても盛んで、今回のISBEはまさにホーム開催でした。そのせいか、今回の ルンド大会では、体色に関するセッションがこれまでになく多く設けられおり、 会場に向かうのが毎日とても楽しみでした。隠蔽色をテーマにした論文がなかな か受理されず、隠蔽色研究にめげそうになっていた私でしたが、やっぱり隠蔽色 は面白い、という思いを新たにできたことは大きな収穫でした。  隠蔽色の論文のパブリッシュに苦労した苦い思いもあり、体色研究の本場での ISBEであったにも関わらず、今回の私の発表は「イナゴの自切しやすさと体サイ ズの関係」についての内容でした。ISBEの直後に国際昆虫学会(ICE)での発表が あり、隠蔽色のトピックをそちらにまわしてしまったのです。ISBEでたくさんの 関連研究を目の当たりにし、「隠蔽のトピックをISBEで発表することにすればよ かったなぁ」と心底残念に思いました。帰国してからようやくパブリッシュされ た隠蔽色に関する私の論文を見てくれた人が「今も隠蔽の研究を続けているの か?」とメールをくれました。そのメールを受け取り、残念な思いが蘇ったもの です。  ルンドでの滞在で最も驚いたことは、多くの支払いをクレジットカードで済ま せることができ、現金を殆ど必要としないことです。パブでビールを注文する時 は1杯ずつ前払い(もちろんクレジットカードで!)というシステムや、タク シーですらカード決済機を搭載していることには、本当に驚きました。町では子 供が入ったキャスター付きのかごを引っ張った自転車が走っているなど、何もか もが面白く新鮮でした。もちろん、学会会場に続く石畳と、それにとてもマッチ した家々や古く重厚な建造物には、伝統と気品を感じました。バードウォッチン グが趣味の私は、会場とホテルの間を通う道のりでカササギなどの鳥を見るのも 楽しみの一つでした。ただ、日本よりも鳥の警戒心が強く、特に小鳥に関しては、 なかなか姿をはっきりと見ることができない印象を受けました。逆に、ウサギ類 は比較的よく姿を見せていたように思います。  今回のISBEでは、初めてサッカートーナメントにも参加しました。初めて出会 った異なる国々の行動生態学者が、学会では真剣に意見を戦わせているのに、こ のトーナメントでは本当に楽しそうに一緒にサッカーをしていました。ゲームセ ット後にお互い笑顔で握手をするのを見て、なんとも言えない不思議な気持ちに なりました。日本チームもエントリーしていたのですが、メンバーに女性が1名 いなければならなかったので、私も急遽参加することになりました。“日本チー ム”は、ブラジル人やオーストラリア人、海外で研究をしているうちに海外に住 みついてしまった日本人など、とても多国籍で個性的なチームでした。私が一方 的に発表や論文を拝見して、密かにとても尊敬していた方もメンバーの一人であ ったため、初めていろいろと話を伺うことができ、サッカートーナメントにも交 流のチャンスがあるなんて、と嬉しくなりました。  学会も終わりルンドから空港に向かう途中、電車の中で電車の切符(レシート のようなペラペラの紙)を持っていないことに気が付きました。幸いレシートは 手元にあったので、検察員にレシートを見せながら「切符を受け取るのを忘れ た」と説明し、なんとか乗り切りました。(帰国後に鞄の底からしわくちゃにな った切符が出てきました。)トラブルは続くもので、コペンハーゲン行きの電車 に乗るところを間違えて逆向きの電車に乗ってしまったのです。かなり余裕をも って出発したおかげで事なきをえたのですが、それでも、コペンハーゲン空港で の手続きを急がなければならない状況になりました。人間は窮地に追い込まれる と信じられないくらいの力を発揮するもので、英語がスラスラと口から出てきて、 手続きに手間取ることもなく無事帰国できました。  ISBEで英語を思い出したおかげで、直後の国際昆虫学会では、発表後に質問を してくれた人と実験手法について議論したり、Wi-fiの接続方法を教えてあげた り、ランチに一緒に行ったりと、リラックスして英語でコミュニケーションがで きました。ISBEに参加するたびに、英語の勉強をしなければと痛感します。今回 もまた、学会前からトレーニングしておけば…と後悔しました。3回目のISBE参 加なのに、未だに英語力の無さに苦しめられているのは、自分でも情けなく悔し い限りです。ルンドに滞在中、スウェーデン語が英語のように聞こえるときが少 なからずありました。スウェーデン語と英語の違いは、実は標準語と津軽弁の違 い程度なのではないのか、では英語が話せれば、もしかして他の言語も簡単に話 せるのでは、と以前よりも真剣に英語を勉強する気持ちになったのは嬉しい誤算 です。  今回のISBE参加をきっかけに、海外に滞在して研究するのも悪くないと初めて 思えるようになりました。それは、ルンドの町がとても温かい雰囲気で、人々が 親切だったからかもしれません。あるいは、ルンド滞在中の知り合いTさんが、 ルンドの町に馴染み、着々と研究を進めている姿に刺激を受けたからかもしれま せん。今回のISBEルンド大会への参加は、海外に対する私の印象を変えました。 この思いを忘れず、国内外を問わず活躍できる研究者へと成長できるよう、自己 研鑽を誓うきっかけにもなりました。 ****** end of Japan Ethological Society MailNews (124) **********